特別対談

Special Contents

Date : 2023.07.28

At : 越前古窯博物館

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進士五十八×土井直樹

対談者二人の記念撮影写真

庭園は社会性と時代性を持った
日本文化の象徴

𡈽井:

今のところはいろんな事業は建築家がリードしていて、造園家はその次のような。本来は逆であるべきなんです。敷地を全部読める造園家が先に構想を描いて、そこにお互いを引き立て合うような建築物が来るようにすると理想的ですけどね。

進士:

歴史的な造園空間を見れば分かりやすいと思いますけど、岡山の後楽園とか、金沢の兼六園は、広い庭園のポイントに建物が絵になるようにを入れている。これが江戸の大名庭園です。数万坪の敷地の広大な林泉に一軒一軒と亭榭や御殿を造るんです。空間全体でみれば、イギリス風景式庭園のように、広大な緑地風景の中の点景として建築物が点在する形ですね。それが現代都市では逆転して、庭の無いマンションが普通ですし、緑化基準があるので木を2、3本植える。緑被率って言うんだけど、緑で覆っている面積は条例で決めても、緑の質は問わない。こういうのを緑化って言う。
国は、公園面積だけは増やしたが質は問わない。量しか考えないのは違うんです。まして庭園の世界で重要なのは質なんです。だから造園は緑化じゃない。風景づくりだ。そのことをわからない造園家は、緑化屋でしかない。そう私は考えています。
日本庭園は単なる趣味世界というのではなく、日本文化を象徴する技と心を持ってる者が支えていかないといけないんです。

𡈽井:

日本の伝統文化であるお茶と茶室においても、庭園はちょっとついでで、本質じゃないと思われているところがあります。日本文化を代表する空間でそこには自然を大事にするとか土地や場所性をとことん考えるとか。
茶道で一座の建立というのは、狭い空間で人と人が相対すれば、心から親密になるからですね。ただ茶室での作法がどんどん細かくなりすぎてはいけないと思うんです。千利休にしてもあぐらをかいてますね。あぐらどころか縦膝ですよね。お茶は当時もっと寛容というか自由なスタイルだったんじゃないでしょうか。

進士:

座禅等もそう。メディテーションはリラクゼーションと私は思うんですよ。ただ、家元制が、細部までルール化するものだから。大体堅苦しいだけだと心を通わせない。お茶を美味しく頂く、お互いコミュニケーションを取るため、こういう空間が調えられたわけで。
庭を持つことの意味も同じですね。
作曲家の黛敏郎氏がうまいことをいってます。「武士道は死ぬ作法。茶道は生きる作法」と。もっとも、庭園は、町人と武家と大名の場合と、庭園のシーンごとに役割はかなり違う。だから造園技術者はひとつ憶えでは役に立たない。プロの技術者に期待される知恵と技はすごく広い。どんなことにも対応できなければならない。だから他の職業よりも幅も広く深いのでヤリガイ、イキガイがある。現代社会では特別の世界だということをエンジョイしてほしいのです。例えば茶道は人間の内面とか精神性を求める路地古典ですし、大名庭園のように大スケールの空間ではフォーシーズンをエンジョイする。慰学と社交の世界。月見の宴をやったり、春は桜で花見をやったり。それを僕は花札世界として説明しているんです。日本人の自然との関係性が美事に花札で説明できます。春夏秋冬12ヶ月の札×4枚に花木など植物と猪鹿蝶など動物と昆虫と、それに花見の宴の幔幕や月見に菊さかづきの重陽の節句など年中行事が描かれる。そこに詩歌短冊など文芸も入ってくる。作庭においても同様で、いかにもその場所にふさわしい、これが海だ、山だ、渓谷だとイメージして庭園は造られるのです。

𡈽井:

いずれにしても日本の伝統を丁寧に勉強するともう限りなくありますよね。確かに、そういう職業は、造園家以外にないと思います。

進士:

造園家が本気でやってくれれば、県土全体の風景が素晴らしい福井にできると思うんです。それで初めて首都圏と関東や関西、海外からもインバウンドの人が来る。観光立県・福井を本気で目指すには、その担い手として造園界を挙げて頑張ってほしい。
広大な農地は農家のみなさんが、都市計画の町並みは建築家が大事だけど、むしろ造園家がリードしなければなりません。

𡈽井:

我が社の後継者育成だけでなく、まだまだ私自身も研鑽し、社会貢献を目指さなければなりませんね(笑)

進士:

私だってこの歳になってもまだあちこちガンバッテいるんだから、𡈽井くんはまだまだ現役で福井のため業界のため大いに働かなきゃ(笑)

𡈽井:

本日は、ほんとうにありがとうございました。

進士・土井のスナップショット

進士五十八写真

PROFILE

進士 五十八Isoya Shinji

東京農業大学名誉教授・元学長 / 福井県立大学長名誉教授・前学長 / 農学博士(環境学・造園学)

これまでに日本学術会議第20、21期会員 環境学委員長 、同第22、23期連携会員、 日本造園学会長、東南アジア国際農学会長、日本都市計画学会長、日本生活学会長、日本野外教育学会長、自治体学会代表運営委員、東京農業大学長、 社会資本整備審議会臨時委員、文部省大学設置審議会専門委員、 環境省など自然再生専門家会議委員長、国土審議会特別委員、東京都景観審議会副会長、 長野県、三鷹市、新宿区、 豊島区 、 江戸 川区 、福井県永平寺町 の景観審議会会長、川崎市の環境審議会会長、世田谷区教育委員、公益社団法人大日本農会副会長 、公益財団法人さいたま緑のトラスト協会理事長 、美しい東京をつく る都民の会会長 、田園自然再生コン クール いきものにぎわい企業活動コンテスト、国際バラとガーデニングショウ等 審査委員長 など歴任。

受賞は、 Golden Fortune表彰、井下賞、田村賞、北村賞、日本造園学会賞、同特別賞、同上原敬二賞、日本生活学会今和次郎賞、土木学会景観デザイン賞、日本農学賞、読売農学賞、日本野外教育学会功績賞、内閣みどりの学術賞 など 受賞、公益社団法人 大日本農会 紫白綬 有功章 、 2007 年紫綬褒章受章。

著書に、『緑のまちづくり学』『アメニティ・デザイン』『風景デザイン』『ルーラルランドスケープ・デザインの手法 』 『農の時代』(以上、学芸出版社),『日本の庭園』 (中公新書 ),『グリーン・エコライフ』(小学館)『日比谷公園―百年の矜持に学ぶ』(鹿島出版会),『地球社会の環境ビジョン』 (日本学術協力財団)『 進士五十八と 22 人のランドスケープ ・ アーキテクト 』 『進士五十八の風景美学』(マルモ出版)など多数。

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