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Date : 2023.07.28
At : 越前古窯博物館
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福井における造園業界の第一人者といっても過言ではない土井造園土木株式会社 代表取締役 𡈽井 直樹氏。これからの業界、造園家としての視野の持ち方など、福井県とも深く関わりがあり、学生時代の恩師である進士 五十八氏と言葉を交わした。
「造園家」に大切なのは、
人間自身と自然について深く知る事
𡈽井:
本日はお時間いただきましてありがとうございます。
進士:
いえいえ。𡈽井くんも元気そうで何よりです(笑)。
𡈽井:
私もこの歳になって、後継者というか、造園家を育てていきたいと考えるような立場になったのかなと。ただ、まだまだ業界的に人材が不足しています。
進士:
確かに造園に対する、一般社会の認識はそこまで高くないね。例えば建築家と比較するとわかりやすい。黒川紀章氏とか隈研吾氏とかだと世間は一目置いてくれる。でも、造園家に対してはそれがない。
私は造園学について、また緑のまちづくりや日本庭園について研究もし、雑誌、新聞、テレビやラジオなどで深くて広い文化論を説いてきたし、国から紫綬褒章やみどりの学術賞、読売農学賞までもらっているんだけど、それがなかなか通じていない。
「造園家」は、造園屋とも植木屋とも違う。植木屋は植物に強く、造園屋はセンスというか感性で勝負してる。ちょっとアートに近いかもしれないね。でも、「造園家」は、和魂洋才っていうかその両方が必要なんですよ。
クライアントの要望をどれくらい膨らませることができるかが「造園家」の仕事なんです。その環境にふさわしい形にアレンジしなきゃいけない。大抵の造園屋はアレンジする能力が未熟というか、どこでも同じことやってるわけ。だから灯籠を置いて、飛び石を打てばもう庭だと。それでは、物足りないですよね。
𡈽井:
最近は、クライアントから基本的な要望だけ聞いて、あとはこちらから提案することがほとんどです。でも、クライアントが私の意見を聞いてくれるようになったのは、60歳過ぎてからですね。
進士:
造園家は、言葉で仕事をとってきたわけじゃない。だからどうしてもいいものを造ればいいっていう風潮があって、全体的に説明力が低い。それで損してるかもね。
結局ね、造園家に大事なのは、適切にコミュニケーションして、相手のバックグラウンドをちゃんと把握して、それに合う形で自分の思想も入れていく。基本的には押し付けちゃいけない。
平安から鎌倉時代に書かれた「作庭記」って世界最古の本があるんです。ガーデンブックなんです。その中にはね、施主の希望を第一に考えよって書いている。すごいでしょ。「作庭記」は、空間の作り方の根本が示されていて、Design with Natureで自然第一主義です。その思想は、都市づくりにも、国土づくりにも、地球環境への付き合い方にも共通する。
私は『新作庭記―国土の思想と風景づくりの方法』という本を、1999年に共著でマルモ出版で出してる当時建設大臣であった元旭川市長の五十嵐広三氏が、「美しいまちづくり懇談会」をつくって、その委員だった中村良夫先生、内井昭蔵先生らと出版しました。そのとき日本列島全体を回遊式庭園に見立てれば、美しくて観光の国がつくれると考えました。高速道路や新幹線が園路で全国の山河、歴史名所、観光スポットがお茶屋だと思えばいい。
𡈽井:
北海道の旭川といえば、道路を公園のようにした「買物公園」がありますよね。
進士:
都市デザイナーの上田篤氏の設計だけど、そのモデルは、アメリカの『フレズノモール』。アメリカの都市再開発の先駆けです。既存の街を活かして、道路を公園化し人が楽しい場所にしちゃおうっていう発想ですね。造園思想としては共鳴できる〜パークス・フォア・ピープル〜人間のための公園で、造園は人間と自然の関係なんです。
「造園家」は人間自身と自然のことを深く、詳しく知らなきゃいけない。それがセントラルパークを作ったフレデリック・ロー・オルムステッド氏の言葉なんですよ。人間のことを知るのはソーシャルプランナーと書いてあるし、自然のことはサイエンティフィックファーマーと言ってる。だから科学的に百姓っていうのは、土のことも水のことも石のことも、気候、雪やね雨や、いろんなもの全部考えてるわけ。
どうも、皆さんは「造園」というと庭のことだとしか考えませんが、私たち造園学者は、庭園・公園・都市・農村・自然環境・国土計画・地球環境まで連続しているので、その全体の理想的なあり方も考えているんだ、ということを知っておいてほしいのです。
𡈽井:
植物はもちろん、その土地に合う種類があるわけですから、北海道はエゾマツ、九州に行くとクスノキだし、鹿児島から沖縄に行くとソテツといったように、いろいろありますからね。
進士:
ソーシャルプランナーっていうのは人間が何を求めてどんなものが欲しいかっていう、社会を計画するっていうのはそういうこと。社会っていうのは人間が集まってできてるからね。人が集まる場所も必要だし、孤独を楽しむ場所を求める人もいる。内面で心穏やかに、座禅、メディテーションの場もあるし、運動公園のようにアクティブ・スポーツの場だったりもする。造園にはそういう多様な要求に繊細に対応しなければならないんです。